選抜の無限ループ
千葉県は東金市。
この地に業界では知らない人はいないであろう、トルコキキョウの産地佐瀬農園があります。
育種家として有名な佐瀬さんですが、現在多数出荷をされておられます。
今日はその佐瀬さんのトルコを少しばかりご紹介します。
一番目は紫や茶などが混ざる「楊貴妃」
アンティーク系カラーの有名な品種です。
アンティークカラーが出来た頃、その当時は知名度もなければ人気も勿論なかったので捨てられる色だったそうです。
しかし仲卸さんに汚い色のトルコキキョウがないかという問いかけで、茶系アンティークを量産するきっかけとなったのだそう。
茶系トルコの生みの親的存在です。
そして2つ目がメタリックな紫の光を放つ「雅」
八重の重なりもそうですが、単色でない所に雅やかな雰囲気があって独特な感じのある花です。
和名の物が目立つ佐瀬さんのトルコキキョウは、奥さんが考えられて付けられたもの。
色の名前を付けずに色を想像できる名前が一番良いという考えから付けられているのだそうです。
そしてピンクに茶系が混ざる「貴婦人」
一輪毎に色の違いもあって、華やかでいながらも落ち着いたカラーが特徴です。
最後が「初恋」
透明感のある若々しいピンクが、その名にぴったりな色合いです。
育種家として冒頭でご紹介しましたが佐瀬さんは種から生産まで行う生産者で、極小さい種を小さな穴の開いたマスに植えて育てて行かれます。そして芽が育ってくると、雌しべが開く前にツボミを開けてピンセットで受粉して行くのです。
気が遠くなるような作業でしょう。
好きだからできる、楽しんでいるからできる事ですね。
以前、熊本のとある生産者さんにも言われたのですが、生産は作る人間が楽しんでやらなきゃ絶対いいものは出来ないよと言われたことを思い出しました。
佐瀬さんのトルコの凄さはこれだけにあらず。
佐瀬さんは受粉しないトルコキキョウの特許を日本国内とアメリカで取得をしています。
簡単に説明すると、普通は花が開くと雌しべも次第に受粉に向けて開いてくるのですが、実は雌しべが開かない花が出て来ます。
こういう花は受精しないトルコキキョウで、勿論子孫を残せない花となります。
しかし佐瀬さんはこの受精しないトルコキキョウの種を選抜に選抜を重ね、故意に受精しないトルコキキョウを作り出しました。
これが、どういう意味があるのか。子孫を残せないなら1回きりで後に何も残せるものもなくデメリットでは?と考えがちですが、実は大きなメリットがあるのです。
花に限らず植物は子孫を残すことに生命の重きを置くので、受精をした瞬間から死に向かいます。
ですから受精しない花は生命の折り返す瞬間がない為に、花持ちが抜群に良くなります。
自然界ではそういう植物は絶滅しますが、佐瀬さんはその種類の種の選抜、人口受精を繰り返してやることで、抜群の花持ちを実現する花を生み出したのです。
これこそが佐瀬農園さんのスーパートルコ。
見た目の凄さよりも目には見えない知恵や工夫が施されている所に、佐瀬さんの凄さがあるのですね。
現在、大田花きでは佐瀬さんのトルコキキョウが沢山出荷されています。
全てが雌しべが開かない花ではありませんが、中にはそういう花も勿論混ざっていると思います。
オンリーワンの夏の花、是非一度お試しくださいませ。